天理大学 生涯教育

天理大学 人間学部 生涯教育専攻 ウェブログです。

生涯教育専攻の学生が目指すもの-卒業論文について

 こんにちは。教員の佐々木保孝です。

 このブログで私は前に「社会教育主事の課程で卒業論文をもったコースは珍しい」と書きました。天理大学生涯教育専攻では、1学年20人で4教員分のゼミを開き、それぞれで毎週のゼミを重ねながら、年に数回は学年全体でお互いのテーマを見直しながら進めていきます。こうした卒論への取組がもつ意味はまた機会があったら書いてみたいですが、今回はまず、直近3年の卒論のテーマ(60本)をご紹介しましょう。以下になります。

*ネット上のブログということで、ここでは一応、地名や団体名については伏せて「〇〇」として書きます。実際の論文には、具体的な名前が入っています。

【学校教育・社会教育・家庭教育領域からの生涯教育へのアプローチ】
・「学校」という場のあり方
不登校に関する考察
・学校給食の現状と地産地消による食育の可能性-〇〇県内の「学校給食を考える会」を事例として-
・小規模特認校の地域連携―〇〇S ジョブズ・スクールを中心に―
・教科「情報」を受けてきた大学生の情報リテラシーの現状と課題
・学習プログラムのブラッシュアップ過程における専門職員の視点
・図書館利用者に対するアプローチ―〇〇市図書館を例に―
・レクリエーション活動が及ぼす効果についての分析~〇〇市の上級ジュニア・リーダー研修会を例に~
・子どもの遊びが成長に及ぼす影響-ある児童クラブにおける遊びの観察より-
・児童館と地域の関わり
・「家庭教育」からみた里親の意義-里子と里親それぞれの成長プロセスに注目して-
・出産前の両親への講座および学習支援に関する考察
・産後ドゥーラとその職務
・ミュージック・ケアの可能性―障害児者支援施設あおぞら倶楽部を事例にー
・親の子育てとスポーツに関する思考

【福祉・厚生領域からの生涯教育へのアプローチ】
・AYA世代のがん患者の支援に関する研究-病室とフィールドを繋ぐフラッグフットボールの実践を通して-
認知症カフェが認知症高齢者やその介護者へ与える影響
・高齢者が地域活動を通じて感じる生きがいについての考察
・”ホースセラピーの存在” 馬が人を癒す可能性

【大学生論・若者論からの生涯教育へのアプローチ】
・大学生の自己開示の特徴について-自己肯定感とSNSに関連づけて-
・大学生の障害に関する理解と価値観
・学生アルバイトの意識と組織コミットメント
・マネージャーになってからしかわからないこと―〇〇大学〇〇部のマネージャーとしての4年間をふりかえって-
・飲酒と飲みの場でできる人間関係に関する考察
・若者が起業し、経営していくために必要なこと
・移住経験がある若者の方言使用とその認識
・スキンケア行動とストレスの関連性
・デジタル化社会において写真を現像・印刷して残すことの意味
・テーマパークから見えてくる現代の大学生像
・記念日文化が大学生に及ぼす影響
・若者の就農に関する課題
・好印象を与えるテクニックと「ぶりっ子」の関係性
・初対面の者同士でいかに心地よく過ごせる時間をつくることができるのか-大学生を対象にした印象形成過程の実験的研究-
ソーシャルゲームの問題点と経済策略-なぜ人は課金という非合理的な行動をとるのか-

【まちづくり・文化論からの生涯教育へのアプローチ】
・U、Iターン者が作り出す持続可能な地域社会
・地方のまちのテレワーク推進と効果-〇〇市産業振興館を拠点とした雇用創出と地域活性化
・「アニメ聖地巡礼イベント」における町おこし効果-〇〇町「さくら咲プロジェクト」を事例に-
プロスポーツチームが抱く地域との問題点
・飲食経営者が掲げる奈良活性化―「〇〇」の運営から見えてくること―
天理教教会における地域への貢献つながり-天理教教会長へのインタビューをもとに-
・教会と地域の身近なつながり―天理教教会関係者へのインタビュー調査をもとに―
・〇〇町民の地元意識
・熱狂的な阪神ファン応援コミュニティについての考察
・日本酒の復権を目指して―〇〇県の取り組みから学ぶ―
ジブリ映画が教えてくれること
・感性の違いから見た日本人の受動的思考~童謡『赤とんぼ』を用いた感性評価~

【スポーツ論からの生涯教育へのアプローチ】
・子どもがアスリートとして熟達する過程に関する研究
・部活動におけるモチベーションの推移
ラグビーにおける集団凝集性とコミュニケーションが与える競技能力の向上
ラグビー選手にとって「怪我」の経験の意味
・アスリートが使用する練習ノートとモチベーションの関係
・競技スポーツにおける青少年のスポーツ指導に関する研究-競技経験の浅い選手のモチベーションの維持とチーム作りに焦点を当てて-
ソフトテニスの魅力とさらなる普及に関する研究
・日本ラグビーの歴史的発展に何が必要か-ラグビーの魅力とその発信に注目して-
フラッグフットボールの教育的効果
・大学競技スポーツ組織の現状と課題―〇〇大学〇〇部を例に―
・〇〇市のスポーツ振興に関する課題の考察
・生涯武道の場としての昭道館合気道町道
プロスポーツ選手の心構えとキャリア志向
・日本におけるeスポーツの現状と今後の発展に向けた課題

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 いかがでしたか?専攻学生の皆さんは、こういう感じだったら面白そうだなあとか、自分にもできそうかなあとか、イメージを持ってもらえれば。こうした自分だけのテーマと出会うことが、専攻の学びの着地点となるように4年間が設計されています。ちなみに、【~からの生涯教育のアプローチ】というのは、私が今とりあえず付けてみただけです。そんなにきれいに分類できないテーマも多いですから、いろんな要素が複合的に入っています。ただ、よく、「生涯の卒論ってなんでもありですか?」みたいなことを言われるそうなので、多少分かりやすいかとも思って分類してみました。

 教育の専攻ですから、学校教育に切りこんでいく論文、社会教育の専門性に関わる論文、それから、家庭教育、これは家庭での子どもの成長を考えるものもありますが、同時に親としてどう育つかという視点もありますね。生涯教育は、子どもだけでなく、成人期や高齢期の学びも扱います。それから、普段は“教育する側”“支援する側”の人たちに着目して、その人たちの活動がどんな学びと言えるのかを考えることも多いです。そうした人間の生の充実みたいな観点から、福祉領域からの話題とクロスしてテーマ設定をする学生さんもいます。

 整理してみて意外と多かったんだなと思うのが、「若者論・大学生論」で、これは学生さん自身が生活しながら日々感じることをモチーフにしています。生活実感から着眼というのを専攻では大事にしていますので、ぜひ、学業以外にも(学業もですが)、学生生活の中で多くの経験を積んでほしいです。- 実は、現在の家にいなければならない状況というのも、社会・経済・精神の面で皆さん本当に苦労をされている最中にいますが、こうしたことも「生活」ですから、今の経験の中で見えかけていることを今後は卒論のテーマにつなげていくひとがきっと出てくるでしょう。

 生涯教育専攻のカリキュラムでもうひとつ軸になっているのが、まちづくりや文化創造に関わる取り組みです。この観点から卒論のテーマ設定をする人も多いですね。それから、さすがにスポーツが盛んな天理大学の学生さんという感じで、生涯教育専攻にもアスリートがたくさんいまして、自分が懸命に打ち込んできたものを卒論の題材にしちゃえ!っていうのもこの専攻の楽しいところです。
 
 こうして書くと、「なんだ、やっぱり何でもいいんじゃないか」という声も聞こえてきそうですが、それは、一見「教育」とはみなされない活動の中にも「人の成長」という要素を見出していこうとするから、結果的に多様なテーマになるんだと思います。個々が取りあげた題材のなかで、そこで着眼している人たちの成長がどんなメカニズムでおこり、どういった社会的な意味を持つのか。それを支援するにはどんな方法がありうるのか。そんな場や環境をどうしたらつくれるのか。こんなことを考えてくのが生涯教育専攻の卒業論文におおよそ共通している点です。
 → 良かったら参照してください。 http://www.tenri-u.ac.jp/home/lifelong/intro.htm

 うーん。言葉を重ねるほうが難しくきこえちゃうかなぁ。。。
 
 このブログのひとつ前で谷口先生が書かれている言葉 -幸せな人生をプロデュースする「生涯教育」の考え方― 分かりやすい!
 幸せのかたちはいろいろだし、課題を乗り越えることも幸せだし、誰かの幸せを後押しすることも幸せだし。
 自分の集大成としての卒論を終えたあとには、そんな視野の広がりをもっている人が多いのが、ウチの専攻のいちばん良いところだと思っています。